福祉車両」を考える 

身体の不自由な人や高齢者が自由に「移動」することの手段として、今や自動車は欠かせぬ存在です。障害者や高齢者が自動車を利用することができれば、自由に移動する手段が確保でき、行動範囲が広がります。公共の交通機関の少ない地方では自動車は生活必需品です。「福祉車両」と称される自動車は、障害者や高齢者がいきいきと社会参加し、あるいは日常生活をエンジョイするためには、なくてはならない道具の一つなのです。「福祉車両」は、正式な名前ではありませんが、今や普遍化しつつあります。「自分で運転する福祉車両」、「乗せてもらう福祉車両」の実情を知っていただき、選び、使いこなすことで、行動の範囲を広げましょう。そして、忘れてはならないのは、自由に移動する手段を確保するまでにはたくさんのバリアへの挑戦があり、それを乗り越え、実現させてきた歴史があることです。いろいろな道具を考えてきたのは人間ですから、これからも工夫次第で、優れた移動手段の確保が可能となるはずです。よりよき福祉車両を考えていくことも大切です。

自分で運転する福祉車両 

障害者が運転する自動車は、普通の車です。足の不自由な人の運転免許には、種類の欄に「普通」、免許の条件等の欄には「普通車はAT車でアクセル・ブレーキは手動式に限る」と書いてあります。つまり、自動車は基本的に同じで、足に障害のある人が運転しやすいよう手動式の運転補助装置を付けている車ということです。
 ドアを開けて座席に乗り込み、車いすを助手席に移し、左手でブレーキとアクセルのレバーを操作し、傍らで見ている人には障害者が運転しているとは思えないような見事なハンドル捌きで運転をこなされる人もいます。パリ・ダカール・ラリーに出場した四肢まひのフランス人ドライバーの写真を見ましたが、なんだってできてしまいそうです。
 しかし、障害者が百人いれば障害は百通りですから、同じ脊髄損傷でも障害の現れ方は個性的です。不得手なところも各人各様で、運転はプロ級でも車いすから座席に移るのが苦手という人もいれば、車いすを積み込むのに難儀する人もいます。そのため、それぞれ自分に合った自動車と、どんな附帯機能を装備すればよいか考えていく必要があります。
 自分で運転するための福祉車両の基本的な選び方を考えてみましょう。

ア)ドアは十分に開きますか  イ)車いすは積みやすいですか  ウ)座席に工夫がありますか

運転席に座っていて、自分でドアミラー操作、ルームライト調整、ボンネットの開閉装置作動、ヒューズの交換などができますか? 原則として一人で運転することを考えて、それぞれ調整・交換できるかどうか、必ず試すことが必要です。

よくあるトラブルはバッテリーがあがってしまったため、エンジンがかからないことです。バッテリーが交換できる位置にあるか、チェックが必要です。車いすですと、運転席から車いすに移乗して、ボンネットを開けて、身を乗り出して点検・交換するということがなかなか難しいからです。これ以外のエンジントラブルで車が立ち往生してしまったら、あとは携帯電話と緊急の修理サービスの連絡先を必携とすることでしょう。今やハイテクの自動車は、一般の方では太刀打ちできないからです。

車いす用専用駐車場が利用できないと困ります。

車いす用専用駐車場に一般車両を止めている人がいます。車いす利用者はドアが十分に開けられないと、降りることができません。スペースが確保されないと車両に近づけないことさえあります。当然、車いすから自動車に乗り移れません。ハートビル法で、車いす用専用駐車場の幅を3m50cmと定めた理由はここにあるのです。

乗せてもらう福祉車両

一般の高齢者のことを考えると、まずは足腰が弱くなった高齢者のための公共の交通機関ともいえるタクシーにも乗降の楽な回転シートの車両が普及すると良いですね。さらに、カナダのバンクーバー・タクシーやイギリスのロンドン・タクシーのように、車いすの高齢者もベビーカーの乳幼児も乗降でき、一般のタクシーと同じように街を走り、どこでも止まり、料金も同一というような、タクシーが普及すると良いのです。なぜなら、リフトを装備したワゴンはまだまだ高価ですし、有償ボランティアの移送サービスの会員になっている人も多くいますが、どうしても利用制限があるからです。
 こうした状況に、少しずつ光が射し込んできました。障害者や高齢者を乗せて移動する福祉車両がここ数年で多種多様に増えてきたことです。これまでは、バン形式の自動車が多く、後部ドアを開けると車いすリフトが付いていて、車いすに乗ったままリフトに乗り込むとドライバーがリフトを操作して、車上の人という福祉車両が圧倒的でした。状況を変えたのが、家族と家族である高齢者や障害者を乗せて一緒に移動できる福祉車両が増えてきたことです。

ア)回転シート付自動車  イ)車いすのまま乗降できるスロープ付自動車  ウ)リフト付自動車

福祉車両の未来像

障害者ドライバーだけでなく、高齢者ドライバーも未曾有の増加率です。買い物一つにも自動車は欠かせないものになってしまいました。理想的な福祉車両としては、人間が間違えたくても間違えられない高度な知能化を期待したいものです。
 既に、電子技術を活用して縦列駐車をしてくれる便利な自動車が発売されています。レーダーで前方を監視していて絶対に追突しないシステム、カメラで車線をモニターして車線をずれない自動車もあります。福祉車両にこれらの「安全性」という付加価値が加えられるならば、この上なく素晴らしいことです。

成瀬 正次 (社)全国脊髄損傷者連合会 副理事長  障害者・高齢者モビリティ・プロジェクト 執筆

H.C.R. 福祉機器 選び方・使い方を掲載しました。(2003年11月12日)
http://www.hcr.or.jp/